「ぁ…?」
押し入れを整理していると、懐かしいものを見つけた。
「マスター…これは、何?」
狭い部屋に幾つも高々とつまれた無数の本の山に、入ってきた蒼星石はたじろいだ。
「あぁ、部屋を片付けたら出てきたんだ。」
彼女の身長よりも遥かに高い不安定な本の塔がいくつも建つ狭い部屋。
彼女の目線から見たらさぞかし恐ろしいことだろう。
「こんなに…」
塔に積みきれなかったそれらはまだ無造作に部屋一面散らばっているため、足の踏み場がない。彼女がよたよたとこちらに近寄ってくる。
「もう読まない本ばかりだから、捨てようと思うんだけどね。」
「…そう。」
少し、ほんの少し伏し目がちになる蒼星石。
最近気付いたのだが、彼女達人形は「壊す」とか「捨てる」という言葉に敏感だ。
それはきっと人間の「死ぬ」とか「殺す」といった言葉に相当するのだろう。
だとしたら、僕らは少し、鈍感すぎるのかもしれない。
ふらっと、彼女が近くの本に手を伸ばす。
その本を触る指先はまるで壊れ物を扱うように繊細だ。
「いい、匂いがするね。」
手を本に載せたまま、部屋をぐるりと見渡す。
それはきっと、知識の匂い。
ふと、彼女の目が一点で止まった。
視線を辿ると表紙に大きく牡丹の花をあしらった一際大きな本。
「あぁ、昔買ってもらった植物図鑑だよ。もう古いから捨てるけど…いる?」
彼女が振り向き、目があった。
一瞬だったが。
「ううん…」
「そう…?」
後日、綺麗になった部屋の真ん中で静かに牡丹の表紙の植物図鑑を読む蒼星石が。
(嬉しそう…かな?)
貴重な彼女のほほ笑みを見れたから、良しとしよう。
音無しの人形
(捨てないで良かった!!)
押し入れの中は、また飽和状態だけどね。