申し合わせたように強い雨の降るその日。


私はずっと叫んでいたのかもしれない。











遠雷












突然、私たちが師と仰いだ人は殺された。



突然、私たちの世界はがらりと顔を変えた。












だから突然あなたが戦の準備を整えて訪ねてきたことも、特に驚きはしなかった。












「入れてくれねぇの?」



ずぶぬれで入口に立つ銀時は少し困ったように微動だにしない私の瞳を覗きこむ。

彼の髪の色に合わせたらしい真白の装束は雨のせいで重い灰色に変わっていた。






無言で半身引くと、するりと入りこんだ。






これまで、そこに見たことのない重そうな刀を腰から抜き取ると、がしゃんと耳障りな音をたてた。








土間から上がらずに、奥の居間の囲炉裏の近くに腰をかける。












彼と目が、合わない。










俯いた銀時の銀髪に囲炉裏の光が微かに揺れる。

その前髪から雫が落ちるのを見届けてから私は漸く口を開いた。









「あんたも行くとは思わなかった。」







仲間たちが天人との戦への出陣を勇んで決めた時、人一倍難しい顔をしていたのは君ではなかったか。








「あぁ。」





未だ顔を上げない銀時からは次から次へと雫が落ち続ける。

一体どれほど雨に打たれていたというのか。






「そう。いってらっしゃい。」












精一杯の、肯定と、拒絶














彼が顔を上げる。

今度はしっかりと、目が合った。














私は行けない。



(刀で戦う意思も力を持たないから)











私は引き留めない。




(あなた達の気持が痛いほど理解できるから)




















「お前、どうするんだ?」




ひとつも瞳を動かさず、彼はゆっくりと問う。


負けじと赤色を見つめたまま、私は答える。






「先生の墓を守るわ。」








それがあの日、先生の墓前で誓った私の意思。













一かけらの骨も入っていないその墓を、私は守り続ける。





いつかあの人が故郷に帰ってくるその日まで。





















立ち尽くしていたに、銀時の手がゆっくりと、恐る恐る伸ばされる。






私も恐る恐るその手をとった。








「っ…」







瞬間大きく引かれる体

















あぁ、止めてよ。




私まで濡れてしまう。

















「…行ってくる。」









耳元であなたの声がする。





















そうよ。

言い訳も謝罪も聞きたくはない。





あなたはその道をただ行けばいい。








待ちはしない。




私だって前に進んで見せよう。









































































「せんせ〜い!!」



「おきゃくさんきたよーっ!!」






そして数年後、私は守り抜いたその場所で、待ち焦がれた言葉を口にする。










「おかえり。」




「…ただいま。」


















遠雷



遠くで響く





呼んでる







答えている私の叫びが、聞こえたことはありますか?