「じゃ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
目の前の女はいつもと変わらない顔でそう言った。
夜の帳が落ちる頃に家を出るときは、大抵が血生臭い仕事。
自分の血を流す気は毛頭ないが、その保障はない。
彼女はそれを良く分かっている。
知っているんだ。
お前の白い衣装箪笥の一番下に、そこにそぐわない黒い喪服が酷く大事そうに入っていること。
知っているんだ。
お前が偶に、それを無表情で見詰めていること。
涙でさえ、黒い重さを持つから泣けない君。
こんな時どうしたらいいか俺は未だに分からない。
何をしても、全てが黒い重さを持つなんて。
それでも、抱き締めずにはいられない。
「必ず、戻る。」
「勿論。」
喪に服す、覚悟は出来ている
(私は笑わない。私は泣かない。)
(けれど、包まれた貴方の匂いがこんなに心を重くするなんて。)