「そういうわけで、今日から仲間が増えました!みんな飲んで親交を深めよ〜っ!!」
15分前にそういった男が、裸で転がってるってどうなの、とは思った。
仮面 04 ナカマ
新人隊士のための宴会が始まり、の預かり知らないところでバタバタと死者が出ている。
松平の隣に拘束されている彼女は、酌をしながらも、嬉々として近寄ってくる隊士たちの勧める酒を
やんわりと断り、オレンジジュースを飲んでいた。
(それにしても…)
は横目で気付かれない程度に土方を見る。
彼女とは幾らか離れた場所で何人かの隊士に囲まれながら土方は酒を飲んでいるが、
先程から刺すような視線を感じる。
それは、また違う場所で山崎を苛めている沖田も同じだった。
(鼻っから嫌われたものだわ…)
しょうがないと思う。
上からの命令で雇わなければならないのが得体の知れない小娘なのだから。
今までもそうだった。
「雇われ」という立場上、嫌われることは多々ある。
そしてこれからもそうだろうと、は思う。
それでも、仕事が出来るのなら、誰に嫌われようと、貶されようと平気だ。
次の日、鳥の囀りで近藤が目を覚ますと、広間は酷い有様だった。
転がる数人の男達と鬼嫁のラベルが貼られた一升瓶
これは賄さん達に怒られるだろうか、なんて、ボーッとした頭で考えていた。
しかし、そこでハタと気付く。
ちゃんはどこだろうか。
彼女にはまだ部屋を与えていない。
(まさか、誰かに連れ込まれたり…!?)
うちの隊士がそんなことをするわけはないが、松平は致しかねない。
「ちゃんっ!!」
近藤が慌てて広間の戸をあけて出ると、朝靄の中、は庭に立っていた。
「いかがなさいました?」
こちらに向かって歩いてくるを見て、近藤は安堵のため息をついた。
「よかった何処へ行ったのかと思っ」
「服着てください」
サラリと言われて下を見ると、モロダシ
「きゃぁぁぁぁっ!」
近藤の甲高い叫び声が目覚まし代わりに屯所中に響いた。
「本日付で を真選組一番隊、監察に任命する。」
専用の隊服に身を包んだが証書を松平から受け取った。
「昼は一番隊、夜は監察。大変すぎると思うが…」
「いえ、ご心配には及びません。」
有無を言わせないように断言するに近藤は心配そうに顔を歪めたが、「そうか」と言うのにとどまった。
「それでは局長、これをお受け取りください。」
が差し出したのは首飾り。
彼女の手の平に容易に収まる白色の勾玉がついている。
「これは…?」
おずおずとそれを受け取りながら問う。
それは心もとない程の重さで、シャラと音をたてた。
「私の忠誠の証です。それをあなたが持つ限り、私はあなたを守ります。」
は深々と頭を下げる。
「半年間、あなた方に忠誠を誓います。」
満足そうに、松平が笑った。
「よ…よし、じゃぁ任命も終わったことだし、市中見回りに行ってきてもらえるか?」
そう言った近藤は確実に沖田とを見ていた。
(くそ、なんで俺がこんな女と…)
(…思ってることが、手に取るように分かる。あ、隠すつもりもないのか。)
ずんずんと歩いていく沖田の後ろを一定の距離をおいて付いて行く。
近藤に言われた通り市中に出たものの、一切の会話はない。
はあの快活そうな顔を思い浮かべた。
恐らく、沖田と自分に仲良くなって欲しいんだろうと思う。
歳も近いし、仲良くなれると思っているんだろう。
無理だ。
沖田の背中を見ながらそんなことを考えていると彼が急に立ち止った。
「あれー、宗一くんじゃん。」
「旦那、総悟です。今頗る機嫌が悪いんでなんか面白いことしてくだせぇ。」
「ハードル高っ!!」
聞き覚えのある声に沖田の後ろから顔をのぞかせるとやはりそこには、
「銀時。」
片手にコンビニ袋をぶらさげて、片手でイチゴ牛乳をすする銀髪の侍が立っていた。
「おーちゃんじゃん!…似合うねぇ、ミニスカ隊服。」
そうなのだ。
の隊服は、松平が機能性を考えて開発した結果プリーツスカートになったのだ。
「真選組もみんなこんな娘だったら税金泥棒なんて言われないんじゃねぇの?宗一郎くん。」
「旦那、総悟です。なんだ、旦那までその女の骨抜きですかィ。…俺はもう行きまさァ。てめぇ、付いてくんなよ。」
瞳孔の開いた目でを睨むと行ってしまった。
「なんだ?機嫌悪いね、アイツ」
銀時が不思議そうにを見つめると彼女は小さく溜め息をついた。
「私のことが気に食わないんだろう。」
「なんでまた。一緒に仕事してんだろ?」
イチゴ牛乳の紙パックがズズっと音を立てた。なくなったらしい。
「今日からね。じゃ、仕事の説明あるから屯所戻るわ。」
「え、ちょっ待てよ…って行っちまった。」
振り返りもせずに小さくなる背中。
銀時は目を細めながら見えなくなるまで見ていた。
「そっけねぇな。相変わらず。」
7年ぶりに彼女と再会したのはほんの2日前のことだった。