いくつになったって
お祝いされたら嬉しいもので。
坂田銀時は寝転がっていたソファからボトリとジャンプを落とした。
すでに、今週のジャンプを読むのは5回目。
5回も読めば内容は暗記してしまうもので、はっきり言って面白くはなかったが暇つぶしにはもってこい。
時計を見上げればPM11:45
そこではたと気づいた。
(何を待ってんだ俺!?)
明日、つまり15分後は自分の誕生日。
この歳になって0時のおめでとうメールを待つ女子高生のようなことをしていることに気づき、銀時は頭をかきむしり、小さく舌打ちをする。
小さな舌打ちのはずだった。
それなのにガランとした部屋ではそれすら大きく響いた。
小さな舌打ちで空気が振動するように
銀時の心もまた、ほんの少し、過去に揺れた。
虚空を見つめ、瞳に映すのは過去の賑やかな晩のこと
「きんときぃぃっ!飲んどるかー!!?」
「てめっ!なんで俺が酔う前に酔ってんだよっ!」
「まぁまぁ、銀時いいじゃな・・・・ゲェェェェ・・・」
「てめえもじゃねぇか桂ぁぁぁぁっっ!」
騒がしい宴会。
仲間たちの顔が燃え上がる囲炉裏の炎によって赤燈色に浮かび上がる。
温かい。
ただそれだけをはっきりと覚えている。
そこで、するりと襖が開き、入ってくるのは秋の肌寒い夜風。
開けた本人はあまりの熱気に入ってくるをためらったのだろう。
くりっとした瞳をさらにまん丸に開いて立ちすくんだ。
「〜〜〜〜っ!」
両手に持った酒瓶を手放すことなく、勢いよく抱きつこうとする先程銀時に殴られた男。
しかし、少女は臆することなくひょいと避け、部屋の中心にいた銀時に近づいた。
「…誕生日だったのか?」
表情を変えることなく、そう尋ねる少女。
その白い頬は囲炉裏の炎を映して、この部屋の誰よりも鮮やかな色に染まっている。
「ま、な。ちゃんは俺になんかプレゼントないの〜?」
ふざけて問うと、この酔っぱらいが…という手厳しい一言が返ってきた。
「でも…」
笑顔を浮かべて彼女は口を開いた。(それは彼女にしてはとても珍しいことだった。)
トントン、叩かれる窓の音にびくっと肩を震わせる。
いつのまにかAM0:05
過去を思い出している間に折角の日付を跨いでいてしまった。
だが、それどころではない。
絶対に、音がした。
窓をたたく音が。
ごくり、と喉を鳴らす。
(いや、別に怖がっちゃいねぇよ!?ほら…うちには神楽ちゃんとかいるし。変質者とかだと困るし)
心の中で呟きながら、そろりと窓に近づく。
腰の木刀に手をかけた。
(いや、別に怖くねぇよ?最近物騒だから。いや、べつに霊的なものとか…)
がたんっ!
「ぎゃぁっ!」
「何をやっているんだ?」
窓から姿を現したのは少女、まだあの頃の面影を残した美しい少女だった。
椅子に逆さまに収まった銀時を見下ろして、は首を傾げる。
「い…いや、別に。そ!それより!どどどどどどうしたんだよ、こんな時間に!銀さんは…ほら…あれだ。アレだよ。」
「はい。」
しどろもどろな銀時を遮り、が手に持っていた箱を置くと、銀時はその箱に釘付けになった。
“ろぜった”
銀時お気に入りの甘味処の名前が金色で書かれたその箱。中身は…
「数量限定のこだわり卵のとろけるプリンだ。」
「まじでか!?」
そう言った時にすでに銀時の右手のプラスチックのスプーンはプリンにささっていた。
「今日誕生日でしょ?」
驚いて顔をあげると、あのときよりも自然になった笑顔があった。
「「おめでとう。」」
一瞬、彼女の頬が赤燈色に染まっているようにみえ、銀時は瞬きを繰り返す。
そんな銀時に気づくこともなく、はまた窓に足をかけると振り返った。
「じゃ、屯所戻らなきゃだから。ちゃんと神楽と新八君にも食べさせてね。」
そして彼女は肌寒い秋の夜空に飛び出して行ってしまった。
残されたのはプリンと彼女の花の香。
最後の一口のプリンを口に含むと、プリンの甘い味とキャラメルの苦い味がひろがった。
それすらもなんだか嬉しくて
銀時はにやける顔を隠すことなく、二つ目のプリンに手をのばす。
もう、心の震えはおさまっていた。
「ありがとな」
いくつになっても、
お祝いされれば嬉しいもので。
こんな肌寒い日は、特に。