誰もいない二人きりの部屋
「ねえ…銀ちゃん…」
女は心なしか熱の籠った声で銀時を呼んだ。
「…どーした?」
「…ムラムラします。」
「…は?」
らぶらび
銀時は手に持っていたジャンプを放ると、向かいのソファにつっぷす女、
馴染みのににじり寄った。
「なに、漸く銀さんの大人な魅力に気付いた?」
ここまで体をソファに投げ出し、ひじ掛けに突っ伏していたが漸く顔を上げる。
「じゃ、ガキどももいねーし、ちょっと大人の一線越えとこうぜ。」
期待にやや鼻息の荒い銀時をのぼんやりとした両目が見つめる。
「…新八くんを、私にください。」
「………はああああああああっ!?」
驚きに声を上げる銀時を見て、が再び突っ伏した。
「やっぱ駄目だよね。年離れてるもんね。でも…
あのきらきらした純粋そうな目を見ているともー辛抱たまんないっていうか、
あーもーあの華奢っぽいのに実は筋肉付いてるとことか、
もーぶっちゃけ……
食べちゃいたい。」
まさかこんな形で肉食系女子に出会うとは。
銀時はやるべきことを失って宙に浮く右手をすごすごと戻した。
(や、まあたしかに登場するのは肉食っていうか雑食?悪食?系女子ばっかりだけれども)
やや引き気味になる銀時に対して、本人がいないのをいいことにの熱の籠った弁は続く。
「皆地味さに気を取られていて気付いていないけど実は結構目鼻立ちしっかりしてるからね。
お妙ちゃんに似て鼻は高いからね。しかも肌ツルツルだし。
…色んなとこに噛みつきたい…。
初めてを華麗にいただいてイきたゴフッ」
再びジャンプを手にした銀時はそれをの頭に振り下ろした。
「いったーい!」
「イタいのはお前だ阿呆っ!」
「何よ!勘違いして鼻息荒くしてた銀さんの方がよっぽどイタいわよ!」
「ばっ、あの状況だとそう思うだろ!大体お前いつからそんな邪まな目でアイツんこと見てた!?」
頭をさすりながらのっそりと起き上ったは、銀時の「邪まな」という言葉に罰が悪そうに口をとがらせた。
「半年前…くらい。」
「け、結構なげえ…。」
銀時はくらりとした。
まさか、よりにもよってどうして新八なのかと。
聞けば、半年前に起きた歌舞伎町四天王の覇権争いにさかのぼる。
歌舞伎町の薬屋で働く彼女は勿論、遠巻きにしていたがその乱闘を見ていたのだそうだ。
託された刀を新八が振るうその姿を。
「わっかんないんだけどね、なんかこーキュンってなったのよ!」
「…あん時俺、めっちゃ煌めいてたんだけど、めっちゃジャンプの主人公っぽかったんだけど…。」
それまでは仲良しの可愛い弟のような存在だったのが、
その時を境に恋心を抱くようになってしまった。
新八の笑顔を思い出すだけで顔がにやけるし、
「さん」と慕ってくれるのが嬉しくて万屋にも多く顔を出すようになった。
「はー新八君可愛い…」
「マジか…」
熱い目で遠くを見つめるその様子はどうみても恋する女で、
銀時はその本気さを見た。
「じゃー告白すれば?がんがんいったら落ちそうだし、チェリーだし。」
もうどうにでもなれと耳をかっぽじりながら言うと、は顔を覆った。
「無理よ。お通ちゃん命だもん!」
銀時が動く。
「こーやって、押し倒しちまえばいいだろ?」
「…何をしているか。」
銀時の顔を下から見上げる格好になってしまったは銀時を睨みつけるとその両頬を思い切りつねった。
「イデッほら乳でも揉ませば既成事実だし。あれ、何か興奮してきた。このままヤッちまわね?」
「!なるほど、無理矢理銀さんにされそうになっているところを助けてもらうとか素敵なシチュエーションね。」
「頭ん中お花畑だなテメー」
「頭がクルクルパーマのお前に言われたくないね。何それ鳥の巣?」
頬の痛さに降参して上から退く銀時に辛辣な言葉を吐き捨ても起き上る。
「はーもームラムラする。」
「お前もうそれやめてくんない?」
誰が何と言おうとも
I LOVE RABBIT
「ただいま戻りましたーあれ?さん来てるんですかー?」
『がたっどかっばきっ…なんで!?』
ドタドタドタ
「おかえり新八君!お土産にケーキ買って来たの。一緒に食べよ!」
完全に恋する乙女なのです。