「焼そばパン買ってこいよぉ。あとジャンプもなぁ。」
私はその人外のもののような顔を忘れることはないだろう。
消えた天の川
「きいいいいいいっ悔しい!悔しいわ!!」
まるで昼ドラの敵役のように喚きながら、私は購買部のお昼ご飯争奪戦へ向かう。
いつも売れ残るあんぱん以外の食料を手に入れようとする生徒で、購買部に近づくほど人が増えてきた。
何としてでも焼そばパンを手に入れなければ。
「なんであんなドS野郎の言うこと聞いてるアルカ?」
私の左手は神楽ちゃんの右手を力強く握りしめている。
この争奪戦に勝利するには彼女の力を借りるしかない。
そう思った私は、神楽ちゃんを酢昆布5箱で雇ったのだ。(安かった)
「負けたのよ!よりにもよって昨日!!」
「何で?」
「大富豪で!!」
ああ、思い出しただけで腹が立つ!
あいつの「革命返し」さえなければ私が女王として君臨できたというのにっ!!!!
神楽ちゃんの一撃で、地獄絵図さながらとなった購買部で、
私が焼そばパンを片手にマダオに端金を投げつけていると、軽快な電子音が鳴り響いた。
[送信者:沖田 件名:屋上。30秒以内。 本文: ]
「きいいいいいいいいっ!!せめて本文にいれなさいよおおおお!」
たてつけの悪い屋上の扉を蹴り開けて見るが、そこには誰の姿もない。
これじゃあ私が一人で奇声を上げたみたいじゃないか。
ぐるりと見まわしていると、上からシャーペンが降ってきた。
「いってええっ!さ!先が!!先端が!!」
「ぎゃーぎゃーうるせィ。とっとと登ってこい。」
逆光で陰るその顔に向けて、私は思い切り焼そばパンを投げつけた。
勿論、その暴挙にはきっちりと罰がついてくるのだ。例え焼そばパンが彼の顔に当たらずとも。
「で、どうしてこうなったんですかね?」
「勿論下僕たるお前が主人に焼そばパンをスパ−キングしたからでさァ。」
別に趣味でこいつの下僕をしているわけではない。
「趣味だろ?」
「心の中読むな!だあああ他に目もくれず私ばっか狙ってカード出しやがって!」
七夕にクラスの有志で行われたトランプ大会。
あの大富豪に負けなければ、私がこいつを使役できたのだ。
腹立たしい。
実に腹立たしい。
寝顔だけは天使みたいな顔しているドS王子に罰として膝枕をさせられている私は空を見上げた。
青天。見えずとも、真上には天の川があるんだろう。
「ところで、そろそろ足がしびれてしまってやばいのだけれど。」
固いコンクリートの上、15分も同じ体勢でいたら当たり前だ。
「ぐー…」
「嘘くさ!」
朝から使役され続け、私のHPはもうないに等しい。
大きく溜め息をつくと、沖田はぱっちりと目を開けた。
寝顔のままなら可愛いのに。
「誕生日、おめでとう。」
待っていただろうその言葉を与えると、にやりと歪む唇。
これは機嫌のいい時の笑い方だ。
一房髪の毛を掴まれて近付く互いの顔。
「あんた、本当に私のこと好きよね。」
「お前、本当に俺のこと好きだな。」
唇は触れない。
そのまま返されて、私もにやりと笑う。
はてさて、見えぬ天の川
我慢できずに泳ぎ渡るのはどちらか。
(ぜってえ負けねえ)
(おい、ジャンプは?)
(あ、)