「すいまっせーんっ!宅配でーっす!!」
「宅配カレーで…」
「ちょ、お前黙っとけ!!」
うっかり扉をあけると、そこには帽子を被った怪しい二人組がおりました。
反則技
バタン
…ガチャ、カシャン
一瞬の判断でチェーンまでつけると、慌てたようにドアノブが無意味にがちゃがちゃと回される。
「ちょ、あの、宅配便…」
「何やってんのよ、銀時、小太郎。」
彼らの言葉を遮るように言うと、扉の向こうからチっと舌打ちが聞こえた。
何をもってしてばれていないと思ったのだろうか。
見間違いでなければ涼しげな顔で小太郎が被っていたのは、彼の最愛のペットの被りものだ。
…ここまでそれで来たのか。
「開けてくれよーー。銀さん困ってんだって。」
「落ち着け銀時、きっとは我らを入れるために部屋を片付けておるのだ。」
「ちげぇよカス。ここにいるわボケ。なんでお前私の部屋汚いと思ってんだ。」
カスではない、桂だ。という声を聞き流し、どうしたらお引き取り願えるか、あらゆる可能性を考慮して頭をフル回転させていた。
この男共に関わって碌な事はない。
だが、しかし。
私の人より乏しい頭で名案など浮かぶはずもなく。
「ちょ、今ご近所さんに変な目で見られた。桂が。」
「お前もであろう銀時。」
今被る諸諸の害とこれからのご近所付き合いを天秤にかけた結果、
私は渋々全てのカギを解除した。
「一体何の用…」
途端、飛びつかんとばかりに勢いよく入ってくる。
「ちゃーーーんっ!もう銀さんどうしたらいいやら!!」
後ずさるタイミングを失い、結局泣きながら飛びつかれてしまった。
一体どうして十近くも離れたこいつらにこんな小娘が懐かれてしまったのか。
ここ最近稀にみる難問だ。
「で、なんの用?」
珍しそうに部屋を歩き回る彼らを一喝して座らせたのだが、聞いた瞬間に再び飛びつかれてしまう。
さっき肘鉄食らわせたはずなんだけど、なんでこんなに元気なのこいつら。
ヤバイヤバイと連呼する彼らでは話にならず理解しようとするのは既に放棄した。
しかし、この桂の被りもの、非常に邪魔だ。
さっきから桂が頷いたり私を見上げたりするたびにガスガスと鈍い音をたてて私の右頬に攻撃をしかける。
勿論本人がそれに気付いている訳もなく、それがなお腹立たしい。
「っ…邪魔なんだよコレ!!」
耐えきれなくなり、思い切りそれを引っ張り上げる。
その白い被りものは小太郎の顔のいくつかのパーツに突っかかったが思ったよりも簡単に取れた。
「…」
「「…」」
「ぁ、風呂掃除しなきゃ。」
「無視っ!?」
「さすがだな。いまどき稀に見るスルースキルだ。」
立ち上がり、風呂場に向かう私の袖を、銀時が思い切りひっぱる。
「ちょっ、見てよ!銀さんの頭にも付いちゃってんだってっ!!」
ぐるりと振り向かされた私が見たのは、良い歳した大人2人の猫耳姿。
「ごめ、まさかそんな趣味が二人にあったとは思わなかった。これは私もさすがに…」
「ちげぇぇっ!何が悲しくてヅラと一緒に猫耳つけなきゃなんねんだよっ!」
「ヅラじゃない、桂だ。私は銀時よりもお前の猫耳が見た…フグッ」
私の表情が陰ったことに気付いた銀時が小太郎にアッパーを贈る。
「本物なんだって!取れないんだって!!だから困ってんだよ!!!」
だからってなんでウチに来るんだ。
触りまくった結果、漸く本物だと信じはしたが、溜め息をつかざるえない。
「取れねぇンだよ…これじゃあの年増と同じじゃねえか…」
恐らくお登瀬さんのところのキャサリンのことを言っているのだろう。
散々罵っていたからこそ、自分の身に降りかかったこのダメージは計り知れない。
若干青ざめている銀時は、耳も心なしか垂れている。
「私も、かまっ娘倶楽部でのウケはいいだろうが、常にこのようなものが付いているのでは
攘夷志士としての威厳が…。」
小太郎に関しては、最初から威厳などなかったということに気付ければ、そのままでもいいのだろうが、
本人にその気がないのならこれは由々しき問題だろう。
かといって、私も何か出来るわけではない。
「結局あんた達はどうしたいの?」
「「この耳取りたい。」」
声をそろえる二人に、私は重い腰を上げる。
「しょーがないなあ…じゃあちょっと道具買ってくるから待っててよ。」
「道具!?何のだ!!?」「と、取れるのか!!?」
希望に満ちた眼差しで見つめられ、私はにっこりと微笑んだ。
「切除用の剃刀と縫合用の糸。」
「「ヒイイイイッィイイイイイイィイッ」」
その瞬間壁際まで後ずさった彼らの顔は真っ青。
「むむむむむむむむりですぅうううっ!無理ですってええええ。」
「わ…私のななななナニが無くなってしまったら…む、無人島生活でとったどーーーーーで…」
小太郎は何の話だか分からない。何時の間に工事の話になったんだ。
とにかく2人とも、非常に怯えていることは分かった。
「冗談だよ。物理的な切除が無理なら、後は神頼み!!とっとと家帰って飯食って寝なさい!!果報は寝て待て!」
折角だしお茶ぐらいは出してやろうと、キッチンに向かう私の着物の裾が何かに引っかかる。
何事かと振り返ると、銀時と小太郎がしっかりとそれを握っていた。
「こんなナリじゃガキ共になに言われるか分からねぇ、泊めてくれ!」
「こんなナリじゃエリーに愛想を尽かされるかもしれん、泊めてくれんか!」
「嫌だね。」
断っても、彼らの眼は真剣で手も離してくれない。
良く見ると、耳も動いてる。
動いてる。
了承の言葉をまつ銀時の白い猫耳は断続的に上下にパタパタと揺れていた。
犬の待てよろしく、微動だにしない桂の黒い猫耳は、直立しているものの、期待に少し震えていた。
…なんだこれ、胸が締め付けられる。
アレ?なんだこれ…え?何これ…
可愛い…
ちょっと…可愛い…
「そ、そんなに言うなら…良い…わよ。」
気づいたら口が滑ってました。
反則技
(だって可愛いんだもの!!!!!!!!!!!)
(実はさぁ…尻尾もついてんだよ…)
(ぐふぁっ)
(?どうした、。)
(い、いや、なんでもないけど?((は、鼻血が…
猫耳銀時さんと桂さんとかマジ天使