「おーい。」






何処かで誰かが呼んでいる。






「おーい。」





でも何か、答えるのしんどいなー。






「おい、。」






うるさいな。つーか、誰よ?






「誰ってオメー銀さんしかいねぇだろうよ。」





「ほわ?」

「ちょ、何も聞いてなかったのこの子!?」









振り返るとマグカップ片手に仁王立ちの銀時さんがおりました。




「…キイテマセンデシタ。」

「何で片言?」




何だかとっても動きたくない。疲れているわけではないのだけども。




「あんにゅーいなのよ。あんにゅーい。で、何ー?」

「あんにゅーいですか。ソコの紅茶をいただけないでしょうか。」




只今3時のお茶タイム。
手土産に買ってきた二人分にしては多すぎるケーキやら何やらをテーブルに広げて、ティーパーティー…のはずだったのだが。


だったのだが。


何だか好きなケーキもあまり食べる気にもなれずに、銀時の仕事机に座って外を眺めていたのだ。











外は雨。
色とりどりの傘がいくつも前の通りを行き交う。
今日は日曜日。









無言でポットを傾けると銀時の白いマグ(大きく「銀」と書いてある)に赤褐色の液体が注がれる。
その時ちらりと見たテーブルは既に空っぽ。


銀紙やらビニールやらだけが転がっていた。


(野郎…全部食べたな!?)



思い切り睨むが、背を向けてソファーに向かう彼には届かない。

別に全部食べられたからとて、いつものことだし怒りはしないけど。

こんなに元気の出ない日は、おいしいものでも食べれば元気出るかなーと思ったけれど、そうでもないみたいだし。

(でもやっぱり悔しい)















外を見るのも飽きてしまい、ポットと自分のマグを持ちソファに戻る。


腰を下ろした目の前では、銀時がいそいそとミルクティーを作っている真っ最中。

まず角砂糖を4つ。ミルクをスプーンに5杯。

…もう紅茶じゃないよね、それ。















しとしとと、雨音だけが響く室内。
無言の2人。



いつも賑やかな神楽ちゃんや新八くんは何処かにおでかけ。







2人きりでも売り言葉に買い言葉にボケにツッコミに…忙しいなオイ。
とにかく、基本賑やかなんだけど。








…今日は無理。
















口を開くのすら億劫。

っていうか、目を開けてるのも億劫だし、息するのも面倒。

もう嫌だ。何だこれ。














大きく溜め息をついて、両手の中のマグに視線を落とすと、濁りのない赤褐色が揺れた。

(私はいつだってストレートかレモンティー)









目の前の空気も揺れた。

けれど、首を持ち上げるのが面倒。

そう思っていると、隣に大きな温もりが座った。




「定は…「じゃねー。銀さんだろ。」」









…このワシャワシャした感覚は定春も銀さんも似ているんだけどな。













手を引っ込めようとすると逆に掴まれてしまった。渋々視線を上げるとやる気のない目に捕らわれる。

やる気のない顔。











その瞳に映る2人の私はびっくりするくらいの間抜な顔。








「どーしたんですかー?さん。」

「…別に。」






そう答えると彼の腕が後ろに回った。


私は反抗するのも億劫で、そこに寄りかかる。
勿論、手の中のマグに気をつけながら。











「ならいいんだけどよ。」

「うん。」










しとしとと、外は雨。
室内は無言。


















でも、それでもいいと思えるから。
私はココにいるのかも。




(口を開くのが億劫だから、間違ってもそんなこと言ってやんないけど。)




























「あ。」


今思い出した。
近いんだ女の子の日が。



だからこんなに元気ないのか。











「まじでか。ちょ、ちゃん。」
「何でにじり寄ってくるわけ?紅茶こぼしちゃうからやめてよ。」
「ヤレなくなる前にヤろうかと…」
「死ね。」















そっぽ向いて口に含んだ紅茶は甘酸っぱい。