「裏切るの?僕たちを。」
「裏切る?最初から同胞なんかじゃないわ。」
ありあわせの金属元素で創り出した短剣をエンヴィの白い喉元にあてると、私たちとなんら変わらない赤い液体が少し、流れる。
「これ、血なの?」
そう問うと、彼は自らそれを指ですくって舐めて見せた。
「そーだよ。」
その笑顔はいつもと同じ。
私を殺したときと
私を拾ったときと
私を迎えるときと
私を送り出すときと
同じ笑顔で、どうして今自分がこんなに嫌な汗をかいて、こんなに重い剣を持っているのか分からなくなる。
「おチビのとこ…行くの?」
そう、そうね。私は彼のトコロへ行くの。彼らと同じ場所で生きて行きたいの。
「無駄なこと、するねぇ。」
彼の指が私の髪をからめて遊びだす。
「そんなこと…知っているわ。」
それでも、少しでも、少しの間だけでも、自由を。例えそれが誰かを傷つけるワガママだとしても。
「サヨウナラ」
「マタネ」
そうして私は一度だけ彼を殺して、重い扉に手をかけた。
月を裏切るのは、太陽を討つより容易くて。
しかし私は、月を失った空に耐えられるのだろうか。