そうだ、世界はキラキラしていた。
くれない
「おい!高杉知らね?」
遠くから叫ぶように声がして、縁側でうつらうつらしていた私は顔を上げた。
すると遠くから近づいてくる二つの影。
裸足でかけてくる銀時と、その後ろを歩いてくる小太郎。
「松陽先生のいいつけで庭掃除じゃないの?」
あっと言う間に近くに来た二人に答えて縁側から下りる。
長いこと縁側にいた自分に染み付いた陽だまりの匂いに笑みが零れた。
ずっと昔の、春の日の記憶。
息をきらした銀時。暫くすると小太郎も追いついた。
「おせぇよ、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
どうしたのだろうか、確か3人で障子戸を壊した罰として庭掃除を言いつけられたはずだが。
「庭掃除をしようと思ったのだが高杉がどこにも見当たらないのだ。」
「えー…私ずっとここで昼寝してたからなぁ…見てないよ?」
そう言うと、それまで息を整えていた銀時が顔を上げた。
「つーかなんで!お前だけ庭掃除ないんだよ!!」
「ごめーん、私その時寝てたから。3人がふざけてたの全然知らなかったんだよねっ!」
舌をだして答えると悔しそうな銀時の顔。小太郎は一人、素知らぬ顔だ。
「嘘付け!お前めっちゃ笑ってただろ!」
「寝言よ寝言ー」
勿論、本当は起きていた。彼らと一緒に怒られるのが嫌で、咄嗟に狸寝入りを決め込み、一人で難を逃れたのだ。
3人には悪いと思うが、仕方がない。もともと壊したのは彼等だ。
「このやろっ!」
つかみかかってくる銀時をひらりとかわすと、小太郎の後ろに隠れた。
「きゃー銀時がいーじーめーるー」
自分とほぼ変わらない高さの肩ごしに銀時をみる。
「よせ銀時。仮にもはおなごだぞ」
堂々と言う小太郎の後頭部を思い切りはたいてやった。
「仮にもってなんだ。」
仲良しだったのだ。私とあいつらは。
「で、探しても晋助いないんだ?」
話を戻すと、二人は揃って頷いた。
「んー」
空を見上げる。
空…
空…
真っ青
申し分のない快晴
「多分こっち」
そう言って歩き出すと二人が慌てて続いた。
「あいつのお気に入りは全部探したんだぞー」
暫く歩いていると、銀時が不満気にもらした。
周囲の景色は先程とは打って変わって森の中。いつも遊びなれている裏山だ。
晋助は自分専用の場所、というものをいくつも持っている。
他人には決して教えない場所。
光栄にも、『他人』ではなく『友達』に認定されているらしい私と銀時と小太郎は晋助の隠れ場所の殆どを知っている。
というか、松陽先生の言いつけで必死こいて裏山で晋助を探し回った結果、知ることになったのだが。
「天気も良いゆえ、日当たりの良い場所は粗方探したのだが…見当たらないのだ。」
後ろで小太郎が溜め息をつく。
「あんた達の知らない場所だって、あるってことよ。」
足を止めずに答えると、今度は銀時が大袈裟に溜め息をついた。
「仲良いよな、お前ら。」
銀時と小太郎とは松陽先生の塾で初めて出会った。
私より先にここに来ていた晋助の友達ということで、仲良くなってからどのくらい経っただろうか。
もともと幼ない頃からお互いを知っていたため入塾早々晋助と話し始めただったが、それが塾にいた人間には大きな衝撃だったらしい。
「俺たちだってまともに話すのにひと月はかかった」
銀時から感嘆混じりにそのことを聞いた時には驚きはしなかったものの、なんだか呆れてしまった。
「ま、ね。なんか晋助と性格合うみたい。」
目隠しのように目の前に広がる茂みをかき分ける。
すると急に広がる視界と柔らかな日の光。
周りの木々が申し合わせたようにそこだけ開けた空間。
その中央で不機嫌そうにこちらを睨む双眼と目があった。
「迎えにきてあげたよー晋ちゃん。」
「誰が晋ちゃんだ。」
「ね?」
振り返ると口をあけた銀時と小太郎。
「「高杉ーーー!!」」
数秒の後、二人の叫び声が裏山に響いた。
「で?先生になんて言い訳するの?」
夕日の中、先頭を歩くが問うが、応えはない。
後ろに続く3人を見ると、全員泥だらけの酷い有り様だ。
「私ちゃんとそっちは崖だよって言ったのに。」
「「「聞こえねーよ」」」
あの時、晋助に飛びかかった銀時と止めようと前に出た小太郎。
よけた晋助。
何故か崖の方によろけた小太郎。
がっしりと掴まれた銀時と晋助二人の袖。
結果
「良かったね、下が茂みで。」
「良くねー。お前のせいだかんな、ヅラ」
「ヅラじゃない。桂だ。そもそも高杉お前が…」
「テメェなんかヅラで十分だ。障子破ったのはお前と銀時だぜ。」
「な!大体お前が!!」
「ヅラじゃないか…」
「お前だまれ!」
「アハハハっ!じゃ!私先帰るからっ。」
「「「逃げんなーーっ」」」
本当に仲が良かった。私達は。
そして私は、今もそうだと信じたいらしい。