君にそんな顔、させたいんじゃないのに。
クレナイ
降り立ったのはこの辺りで大きな一番大きな倉庫の裏。
影が支配するその場所に、彼らは極力静かに着地した。
「まずいな…役人がもう走り回っている。」
桂の言葉に耳を澄ませると夕焼けの紅の中、騒々しい足音がいくつか通り過ぎて行くのが聞こえた。
「私は行く。お前らと一緒ではない方がいいだろう。」
「そーだな。手配犯と一緒に御用とか…願い下げだかんな。」
「豚飯は嫌だ。」
「貴様らには思いやりというものがないのか…」
ムキになって反論してくる桂を見て、は内心ホッとしていた。
(変わってない…こいつも)
変わらない方が、難しいことなど百も承知。
それでも変わってほしくない。
それくらいの我が侭、願うだけならいいでしょう?
「それでは、またな。」
「ああ。」
「またな」を肯定したに、桂は目を丸くするが、すぐにそれは微笑みにかわった。
「気ぃつけろよー。」
そう言う銀時に片手を上げて答えた桂の背中が小さくなるまで、彼とは立ち尽くしていた。
いつまでも変わらずに仲良く。
それは、叶わない願い。
私は、彼を失った。
「俺らも逃げるぞ、。」
そう言って私の手をとった銀時の手は暖かかった。
「バイクは置いてけ。目立つから。」
ばたばたと、二つの足音が響く路地裏。
駆け足で流れていく景色を、見ていられない。
「お前、今どこ住んで…「銀時!」
こっちを振り返ろうとした銀時を慌てて止める。
「ゴメ…こっち見ないで。」
きっと酷い顔をしている。
私はまだ彼が好きだったようだ。
一歩、一歩踏み出す度に頬から雫が落ちる。
けれど、立ち止るわけにはいかない。
徐々に離れていく距離が、残酷な現実を早く受け入れろと、急かすから。
スンと小さく鼻を啜る音が後ろで聞こえた。
俺は、振りかえることができない。
また、確かめる勇気がない。
ただ、その冷たい手を握る手を少し強めて前へ前へと進むことしか、出来なかった。
「それとですね、副長。桂側に旦那らしき奴の他に、珍しい手駒がいたらしいんですよ。」
定食屋で繰り広げられるには物騒な会話。
「なんだ?」
黒の隊服に身を包んだ彼らは真選組。
そこの副長である土方十四朗は、監察である山崎退の話を聞きながら、昼飯をかき込んでいた。
「ひどく強い女が、いたらしいんです。」
その言葉に土方が眉をひそめる。
「女?」
「えぇ。これまでは見なかった手駒です。」
攘夷派そのものの数が大幅に減った今、女の攘夷浪士は珍しくなった。
…洗えば何か、大きな組織に関わることが分かるかもしれない。
一瞬思案に囚われ手が止まるが、すぐに食べ終えたどんぶりから手を離した。
「そいつの素性、探っとけ。俺に逐一連絡だ。」
「サヨナラ」に後悔なんてしていない。
この胸の痛みを、のり越えなくては。
あなたの隣は、私では駄目だったのだから。
彼女の周りを、黒い影が動き回る。