(眠れるわけ、ないよね。)



真上にのぼった月を見て、私は溜め息をついた










月に夢見る









先程『新撰組』の隊士に襲われた時の傷がズキンと痛む。



−この傷も直に消える−



自分の特異な体質が恨めしい。
暫くは包帯を巻いていなければ。





あの、羅刹となった隊士はどうなったのだろうか。
伊東さんには何と説明するのだろう。






先程と同じことを考えていることに気付き、項垂れる。




(私が考えてもどうにもならないのは分かるんだけど…さ。)



ぐるぐるぐるぐると、疑問と不安が心を掻き乱して、私は床にさえつけずに部屋の窓から月を見ていた。






「何してやがる。」





急なその声に、私の肩は大袈裟に跳ねる。
振り向くと、顔をしかめた部屋の主がいた。




「あ…う…えと…おかえりなさい…?」


「とっとと寝ろって言っただろうが…!!」


「はっっ!!はいっ!!」





怒気を含んだその声に、私は勢い良く布団に滑り込む。


それを横目で見ながら土方さんは背を向け机に向かった。




「あの…、終わったんですか?」



恐る恐る聞いてみる。



「ああ。だから少し報告書を書こうと思ってな。つーか寝ろ。」







取りつく島が見当たらない。
暫く広い背中を見つめていたが、諦めて目を閉じた。














(寝る!寝るんだ私!!)













そうは言っても眠れない。










目を閉じてごろごろと寝返りをうっていると、大きな溜め息が聞こえた。


「うるせー」

「すっすみません!!」



恐る恐る目を開くと、淡い光に照らされた横顔が呆れたようにこっちを見ていた。



「…寝れねーのか?」

「う、色々考えちゃって…。」


土方さんの大きな手が伸びてきて、頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。


「おめぇが考えることじゃねーだろ。」

「それは…そうです…けど…。」



「じゃ、寝ろ。」



(何という…。)




すっと視界が暗くなった。
土方さんの手が目隠しになって、私は無理矢理に暗闇へ連れて行かれる。






でも、何だか心地良いのはこの人の温もりの為だろうか?




「明日もあるんだ。今日はもう寝ろ。」




低くて、安心する声に誘われるように、私は暗闇の中、夢に身を任せた。

























規則正しい寝息が聞こえたので手を離してみると、気持ち良さそうに眠っていた。



「単純…」



小さく笑うと、目の前の顔もふにゃりと笑う。







また目が覚めて寝られないなんて言われては困る。

土方は静かに明かりを吹き消すと、戸に手をかけた。








「−おやすみ。」








小さく丸まって眠る彼女に向けたはずの言葉は、傾いた月を飾った夜空に吸い込まれた。